Kutsuzawa Laboratory

研究内容

自由エネルギー原理のロボットへの応用

概要

近年、神経科学における脳の大統一理論として、自由エネルギー原理という理論が注目されています。 自由エネルギー原理においては、認識・行動・学習・思考などの様々な脳機能が変分自由エネルギーという量の最小化として定式化されます。 この理論は特に、情報の不確かさを考慮しつつ認識と行動とを統一的に扱える点がロボット制御において魅力的です。 しかし、自由エネルギー原理のロボット応用には課題が多く残っています。

本テーマでは、自由エネルギー原理をロボットに応用することで、実世界の不確かさに対応可能なロボット制御技術の実現を目指しています。 特に現在は、視覚情報を用いた物体操作への応用に向けて取り組んでいます。

動作教示のための遠隔操作の制御

概要

ロボットに動作を教えるとき、もう1台のロボットを使って遠隔操作することでいわば『手取り足取り』教えてあげる方法が有用です。 このときの制御は、動作の教示がしやすく、かつ、自律動作時にはロボットが柔軟に動けるようなものが望ましいです。 より詳しく言うと、教示時には遠隔操作するロボット間の制御インピーダンス(見かけの剛性、粘性、慣性のこと)が大きく、自律動作時にはロボットの制御インピーダンスが小さいことが望ましいと考えられます。

本テーマでは、動作教示に向けた制御技術の開発を目指します。 特に現在は、位置制御に基づいた遠隔操作による動作教示・運動学習の実現に取り組んでいます。

力覚信号処理

概要

人間が道具越しに環境に触れたとき、たとえ目をつむっていても、道具のどこにどの程度の力が加わったかを把握することができます。 もちろん道具には神経も感覚器もないので、人間は手元に伝わってきた力の情報から道具上での接触状態を推定していることになります。 身体感覚を外部の物体まで拡張するこの能力は、物体を巧みに操って作業する上で非常に有用です。

本テーマでは、力覚情報から物体上の接触状態を推定する技術の研究開発に取り組んでいます。 この技術は、ロボットの道具使用や組み立て作業など、環境との力学的接触を伴う物体操作に広く応用することができると期待しています。

主な成果

  • Kyo Kutsuzawa and Mitsuhiro Hayashibe, “Simultaneous estimation of contact position and tool shape with high-dimensional parameters using force measurements and particle filtering,” International Journal of Robotics Research, 2025. DOI: 10.1177/02783649251379515
    Postprint Available: https://arxiv.org/abs/2509.19732
  • 沓澤京, 林部充宏: “力覚信号に基づく粒子フィルタを用いた多数のパラメータで表現される道具形状の推定,” 計測自動制御学会 東北支部 第342回研究集会, 2023, 342-4.
    計測自動制御学会東北支部優秀発表奨励賞 受賞
    Open Access: https://www.topic.ad.jp/sice/htdocs/papers/342/342-4.pdf
  • Kyo Kutsuzawa, Sho Sakaino, and Toshiaki Tsuji, “Simultaneous Estimation of Contact Position and Tool Shape using Unscented Particle Filter,” IEEJ Journal of Industry Applications, vol. 9, no. 5, pp. 505–514, 2020. DOI: 10.1541/ieejjia.9.505 (Open Access)
  • 小西祐也, 沓澤京, 境野翔, 辻俊明: “力のアクティブセンシングに基づく道具の形状推定,” ロボティクス・メカトロニクス講演会2018, 2018, 2A1-G15. DOI: 10.1299/jsmermd.2018.2A1-G15 (Open Access)
  • Kyo Kutsuzawa, Sho Sakaino, and Toshiaki Tsuji, “A Control System for a Tool Use Robot: Drawing a Circle by Educing Functions of a Compass,” Journal of Robotics and Mechatronics, vol. 29, no. 2, pp. 395–405, 2017. DOI: 10.20965/jrm.2017.p0395 (Open Access)
  • Kyo Kutsuzawa, Sho Sakaino, and Toshiaki Tsuji, “Estimation of individual force at three contact points on an end-effector by a six-axis force torque sensor,” the 42nd Annual Conference of IEEE Industrial Electronics Society (IECON 2016), 2016, pp. 6409–6414. DOI: 10.1109/IECON.2016.7793932
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シナジーの概念を用いた運動学習

概要

人間の教示動作をロボットに学習させる模倣学習は、複雑な作業を自動化する手段として有用と期待されます。 しかし、一度に教えられる動作は我々が過去に獲得してきた技能のうちのごく一部です。 そのため、それをそのまま真似させるだけでは、ロボットが学習できる技能もごくわずかです。

本テーマでは、神経科学分野のシナジーという概念を応用した模倣学習システムの開発に取り組んでいます。 シナジーは人間の動作から抽出される動作の基本単位であり、少数のシナジーによって人間の多様な動作が再構成できることが知られています。 このシナジーを利用することで、少しの動作を教えれば多様な新しい動作を生成できるような、高い汎化能力を有する模倣学習システムにつながると期待しています。

主な成果

  • 沓澤京, “Shared Synergyを利用した高い汎化能力をもたらす模倣学習,” 日本ロボット学会誌, vol. 41, no. 8, pp. 661–664, 2023. DOI: 10.7210/jrsj.41.661 (解説記事)
  • Kyo Kutsuzawa and Mitsuhiro Hayashibe, “Imitation Learning with Time-Varying Synergy for Compact Representation of Spatiotemporal Structures,” IEEE Access, vol. 11, pp. 34150-34162, 2023. DOI: 10.1109/ACCESS.2023.3264213 (Open Access)
  • Kyo Kutsuzawa and Mitsuhiro Hayashibe, “Motor Synergy Generalization Framework for New Targets in Multi-planar and Multi-directional Reaching Task,” Royal Society Open Science, vol. 9, no. 5, p. 211721, 2022. DOI: 10.1098/rsos.211721 (Open Access)